俺はケニア人ではない。
この頃はワイナイナとずーと一緒にいてどうでもいいことばっかり話してる。
だいたい他の同僚の悪口。
それに刺激されたってわけじゃないだろうけどワイナイナもどんどん過激に
なってきてる。
"このオフィスは最低だ。無能なやつらばかりだ。"
それは事実。
だけど、ある日。
ワイナイナが内ポケットの包みを取り出してこう言った。
"コージ。これが何かわかるか?そう。ナイフだよ。俺はこれでルトーを殺すんだ"
ことの経緯はこうだ。
ルトーというスタッフはかなり高位のスタッフで陽気なおっさんなんだけど
たちの悪いジョークを言う。
部族的で政治的なジョークを。
そして彼はワイナイナを何度か侮辱したのだ。
"ヘイ、ムンギキ(キクユ人のギャング集団)!キバキによろしく言っといてくれよ"
ムンギキ:キクユ人のギャング集団
キバキ:ケニアの大統領(キクユ人)
ワイナイナは憤慨しながら"俺は本気だよ。殺すんだよ。"と言っている。
でも、彼はいわゆる野蛮な人間ではない。
彼はオフィスのトップに忠告した。
"これ以上ルトーが俺を侮辱するようなら俺には用意がある" と。
ワイナイナはキクユ族のプライドとしてルトーを殺すというのだ。
笑ってはいるけどケニア人なら、ワイナイナならやりかねない。
俺も必死で止めようとした。ルトーにも忠告した。
そしたらワイナイナはこう言った。
"わかったよ。殺しはしない。
でも、あいつがもしこれ以上俺を侮辱するようだったら
俺はあいつをナイフで切りつける。
一生消えないキクユ人に切りつけられた傷を残してやる。"
"でも、警察に捕まるよ。それかカレンジンに復讐されるかもよ。
家族が悲しむだろ。"
"そんなのは関係ないんだ。キクユ人のプライドのほうが大切なんだ。"
"俺はいやだよ。そんなこと。"
"コージ。ここはケニアなんだよ。"
"・・・俺はケニア人じゃないけどワイナイナの友達として言ってるんだよ。"
"・・・、ルトー次第さ・・・。"
結局、トップの仲介もあってワイナイナがナイフを使うようなことは
今のところ起きていない。
でも、いまだにワイナイナはナイフを持ち歩いている。。
俺には、日本人には止められない。
でも、ワイナイナが何かを感じてくれることを祈っている。
そして、いつものようにワイナイナがナイフのことを忘れてしまうことを
期待している。
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